アナウンサー

ある日のさんぽ

2013年05月24日

学生時代を過ごした京都。
爽やかな青空の下、市内の鴨川沿いを歩いてみた。


高野川との合流点から上流は加茂川、または賀茂川とも表記される、古都の美しい流れ。
堤防に腰掛けるカップルは、私が住んでいたころと少しも変わらず、
規則正しく並んで休日のひと時を楽しんでいた。
「鴨川等間隔の法則」を微笑ましく見ながら、四条通から歓楽街の木屋町通へと抜ける。
ここもまた、とても好きな場所。
通りに並行して流れる「高瀬川」は江戸時代に運河として開かれた。
春は桜が、この時季は新緑が美しい。
まだ灯の入っていない提灯の赤と若葉の緑がきらきらと水面に映り込み、万華鏡になる。

こうした風景に心を和ませる一方で、決まって思い出すのが、森鴎外の「高瀬舟」だ。
高瀬川は、島流しになる罪人を護送する船の通り路でもあった。
財と罪とが行き交ったこの川は、どんな出来事を見つめてきたのだろう。
せせらぎに耳を傾けずにはいられない気持ちにさせられる。
さらにしばらく歩いて、甘味処に立ち寄った。
風格ある家屋に葦簀が涼しげな苔むした庭。
学生時代はよく講義の合間に、こうした「京都らしい」店を探してはお茶をした。

注文したのは「琥珀流し」という洒落た名の冷菓子。
疲れて熱をもった体に優しく沁み込む。
寒天にこの季節は抹茶を流したシンプルな菓子なのに、
「琥珀」という響きが太古を連想させるからだろうか、鮮明に心に焼きついた。

歴史や人々の息遣いを感じながら、
その中にほんの少しだけいる、あの頃の自分を探して。
ある日の、京都さんぽ。

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