映画「となりのトトロ」に登場するのはネコバス、そして今立町にはウサギバスが一日中町内を巡回している。それも♪今だあって〜、今だあって〜♪と町名を歌に乗せてエンドレスで流しながら…。お年寄りを福祉施設に送り迎えしている。私も何度かこの今立町を見廻っているが、この運転手さんがどうやら「達者でござる」の大ファンらしく、一度などはバスを路上に停めて握手を求めにきた。彼はウサギバスの運転手だが、一説によれば同じ動物仕様のネコバスも町は所有しているらしい。真偽の程はいずれ見廻りで判明するかもしれない。
ところで、今立町といえば全国きっての和紙産地。かつて明治政府が太政官札という近代国家最初の紙幣を造る際、その紙の材料をここに求めた。また横山大観などの日本画家ももちろん今立町に画材を求めている。実際に今立に足を運んで多様な紙から、自分好みの紙を選んだ。数ある紙すき工場には歴史的大家の試し書きが密かに保管されている。もちろんこういったものは絶対表に出ないお宝である。

ひっかけ技法1
ひっかけ技法2
紙についての細かい分類は別の項目で話すとして、今回はふすま紙についてのお話である。ふすま紙には菊様であったり、菱形であったり、雲型であったりの模様が漉き込まれている。これは「ひっかけ」という技法で作られている。菊の模様を作るときには菊の形の金の型をたくさん使う。まず、紙の材料となる植物繊維をドロドロに溶かしこんだ白色の液体を、水に浸した大きな布の上に薄く流し込む。その後デザインに合わせて必要なだけの金型をその上に並べる。そしてその金枠の中に色の違う別のドロドロを流し込む。さらにその上に最初のドロドロを少々厚めに均等にかける。全体をひっくり返して薄手のドロドロの方を表にして模様入れの出来上がり。
紙すきも大変なら、この金型制作も骨の折れる仕事である。金型職人は越前和紙産地にたった二人。見廻り奉行が出会ったのは、山下さんというお母さんだった。直径5〜6センチの菊の文様でもそのパーツは花びら一枚一枚がバラバラで、10個くらいをハンダで止めて、やっと1個が完成する。長さ1メートル80センチの襖紙の前面にうっすらと菊の文様を入れようとするとこれが200 できかない。山下さんは言う。「他の産地からこの金型が欲しくてわざわざ来られる人もあるんです。しかし、越前和紙産地ではこの金型の作り方は門外不出。たとえどんなにお金を積まれても受けることはできないんです。」山下さんはこの日集中してひとつの型を作っていた。「今作っているのは私が死んでもあと40年は残るはずです。私の生涯の技をすべてつぎ込んで作っています。」山下さんは最後にこう語った。和紙作りを支える「見えざる手」がここにもあった。(平成8年10月21日放送/ロケ地/今立町)

ひっかけ技法3
裸紙の金型をつくる職人さん