小学校1年生で1学期に学習するアサガオの栽培では、土の中に指を突っ込んで第一関節まで穴をあけ、アサガオのタネを撒けと指導される。タネは児童の夢を受けてやがて芽を出し、双葉となり、本葉を出し、7月21日頃には見事な花を咲かせ、子供たちは夏休みに入る。さらに学習では9月になるまでに、再び種を作り、その種を来年の一年生のために保管するという「アサガオの種学習リサイクル」を完成させる学校もある。
私もまた、植物の摂理はこの様なものと理解していた。しかしその考えが通用しない植物も存在したのだ。それはスイカである。越前若狭には二カ所、スイカの産地がある。一つはあのロシアタンカーナホトカ号の船首が流れついた三国町の丘陵地帯。そしてもうひとつが越前のほぼ中央の武生市白山地区である。
白山を訪ねたのはスイカ収穫期の夏ならぬ春。折から見廻りはゴールデンウィーク前で、スイカの苗はまだ農協のハウスの中にあった。いや厳密に言えばそれはスイカの苗としてあったのではなく、スイカとカンピョウの合体したものとしてあったのである。カンピョウとはあのお寿司の太巻きに入っている茶色の帯状の物体の原料。もちろん植物。ハウスの苗は、双葉が2対あり下の双葉がカンピョウ、上の双葉がスイカでチョロチョロ出た本葉もまたスイカ。土中にうっすらと生えている根毛はその合体から発生していた。スイカ栽培名人の谷口さんによると、これから後はこの苗はスイカとして育てられるという。

鴉ヶ平の苗接ぎ場
ダンコン栽培は母様の楽しみ

ではどのようにこの苗が作られたのか、順を追ってご説明しよう。@まず、カンピョウの種を撒く。A一週間後スイカの種を撒く。B両方から双葉が出て本葉が一枚出ようか出まいかする時、両方の根をちょん切りカンピョウの苗をスイカの苗に合体させる。その要領は双葉の合わさったところにツマヨウジ様のピックを突っ込み、スイカの茎の元をシャープに尖らせて差し込むのだ。Cそしてこれを微妙な温度調整された環境下に置くと根毛が生えてくる。実際にはスイカは続けて同じ畑に栽培する「連作」が効かず、こうすることによって病気に強くて毎年栽培できるスイカが確保されることになる。このような「合体苗」はスイカばかりではない。白山の奥にカラスガダイラという集落があるが、ここでは、野性のナスに染色2号というナスを接いだナスとか、ナンキンにキュウリを接いだキュウリとかが農家のおばちゃんらの手で人知れず生産されている。母様たちの挿入の技は軽やかで熟練していた。
しかし注意しなければならない事がある。それは合体のしかたが悪いとスイカが成るはずの畑にカンピョウがなってしまう。特に最初に紹介した農協のハウスでは地元の女子高生がアルバイトで挿入合体を行っていた。だから見廻りの最中でもいくつか不良品が発見されスイカ名人谷口氏のプライドは少々傷つけられたようであった。ただ、その話をカラスガダイラのお母さんたちにすると、彼女らはとても寛大であった。「それはしようがないの〜!経験不足だもの!」ナルホド、母様たちは身を以て挿入合体に習熟していたのだった。さらに後日入手した情報によるとこの挿入合体栽培をダンコン栽培というらしい。もちろん「断根」栽培という文字をあてるらしいが、気配りのきく見廻り奉行はこれを聞いて、あまりに出来すぎた話に驚いた。(平成9年5月19日放送/ロケ地/武生市白山)