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日本バレーボール界の“レジェンド”中垣内祐一さん 農家への転身から3年 コメ価格、日本の農業をどう見る? 【福井】

2025.05.15 18:20

日本のスーパーエースとして活躍した福井市出身の元バレーボール選手、中垣内祐一さん(57)は東京五輪で日本代表の監督を務めた後、地元福井に戻り実家の農業を継いでいます。農家に転身して3年。コメ不足や価格高騰など、日本のコメづくりの現状をどう見ているのか、密着取材しました。

 

バレーボール界の大スターが農家に転身

 

コメの種まきをする中垣内祐一さん

 

4月29日、福井市内の作業場を訪ねると、中垣内さんがコメの種まきしていました。
  
中垣内さんといえば、バルセロナ五輪をはじめ、数々の国際大会に出場した90年代を代表するバレーボール界のスーパーエース。引退後は全日本の監督も務めた、バレー界のレジェンドです。そんな輝かしいバレーボール人生の一方で、常に公言していたことがありました。それは50歳をめどに実家に戻り農家を継ぐ、ということ。
  
中垣内祐一さん:
「田舎の長男という生まれ育ちだから…ドラマは何もないですよ」
 
地元でコメ農家となって3年、「日々挑戦をしていいものにしていくという、トライ&エラーの繰り返し」だといいます。
 
3月下旬から始めた種まきはこの日が最後。一日がかりの作業でした。

 

6品種のコメを栽培

 

30ヘクタールで6品種のコメを栽培

 

5月6日のゴールデンウィーク最終日。中垣内さんの姿は田んぼにありました。「きょうは1日代かき、田植えの準備です」
  
トラクターに乗り、水を張った田んぼで土を細かく砕き、丁寧にかきまぜて表面を平にしていきます。田植え前に欠かせない作業です。
   
農業法人を経営する中垣内さんは、福井市宮ノ下地区の約30ヘクタールで今シーズンは6品種のコメを育てています。その理由は「同じ品種にすると、田植えも刈り取も同じ時期になってしまうので、段階的にできるように時期をばらけさせる必要がある。刈り取る時期が重なって時期を逃すとしまうと、すぐにダメになってしまうので」といいます。

 

生産コストの上昇に農家は悲鳴

 

中垣内祐一さん

 

収穫したコメは、JAにはあまり出荷せず、直接販売することを第一に考えています。「営業もします。お客さんの顔が見える方が我々としては声も聞けるし嬉しいので」とやりがいを感じる一方で、農家を取り巻く環境は、この3年で一気に厳しくなったと話します。「灯油1.5倍、肥料は2倍。資材関連も軒並み全部値上がりしている。このあたりの田んぼはサラリーマンとの兼業でやっている人がほとんどだし、赤字になるようなケースが多い。重機を一つ買おうと思っても小さい農家では買えない。そういった意味では何らかの政策は必要じゃないか」
   
点在する田んぼを従業員と手分けしながら、代かきの作業は日没の午後7時頃まで続きました。

 

大学教授と農業の両立

 

大学で教鞭をとる中垣内祐一さん

 

翌日、中垣内さんの姿は大学の教壇にありました。地元福井に戻ったタイミングで、福井工業大学で教授も務めるようになりました。「スポーツと健康に関する分野を教えている。農業との兼業ができるということで引き受けた」といいます。
  
平日は大学教授、休日は農業という兼業農家です。
 
講義の合間を縫って、しつこくコメの話を聞いてみました。
 
Q.高騰が続くコメの価格をどう見ているのかー
「対岸の火事というか…生産者と関係のないところで、どんどん価格が上がっているという面では不安ですね」
 
4月末にJA福井県が、2025年産コシヒカリを集荷する際に農家に前払いする「概算金」を1俵(60キロ)当たり2万2000円という額を明示したことについては「通常は9月に入ってから出てくる金額が、4月の終わりに出ているのは、JAにコメが集まらなくて大変で早めに出したのだと思う。それでもJAには(コメは)集まらないと思います。世の中、もっと高くなると思う。今年も高くなるんじゃないですか」と話します。

 

「レベルの高いコメ農家に」

 

田植え機を運転する中垣内祐一さん

 

5月11日、いよいよ田植えです。「カリフォルニア米です!ふふふ…いえいえ『ふくむすめ』です」。地元の福井県立大学が開発した品種「ふくむすめ」。中垣内さんは地元への貢献の思いも込めて“地元発”の品種も手掛けています。
 
颯爽と田植え機を走らせる中垣内祐一さんに、農家として目指すことを聞きました。
  
中垣内祐一さん:
「ちゃんと美味しいと思ってもらえるものを作り続けたいですね。ミシュラン三ツ星のコメ農家!それはないかぁ。でも、レベルの高いコメ農家になりたいですね」
  
「美味しく育て」そんな思いを込めて。中垣内さんの田植えは5月末まで続きます。

 

【取材担当:小川一樹】
中垣内さんは、コメ作りに関わるありとあらゆるものが高騰している中で「10キロ3000円台で売っていた頃にはなかなか戻りづらいのかなと思う。戻ったら日本のコメ農家は即廃業になってしまうと思う」との見解を示していた。コメ価格についてのインタビューでは農家と関係のないところで価格が高騰し農家の収入に結びついていないことを「対岸の火事」と表現していたが「農家の規模に合った細かな政策が必要だろう」と話していた。今後も、農家・中垣内さんの視点とともに農業の未来について取材を続けていきたい。

 

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